80光年のヴァンライフ:3


ベスパ偵察モービルに乗った細身の男。
ヘルメットとキリとした面長なかおの間からは、刈り上げの頭が覗いている。
彼の言うところによると、このセクター一体では輸送船の貨物が盗賊被害が頻繁に発生しているらしく、私のことを完全に疑っているようだ。

「そうはいってもね、ご婦人ここら一体で位置情報を持った船はあなたと後いくつかの遺留船だけなんですよ。そのうち8割はもう私がこの目でとてもではないが人間の立ち入れるような状態ではないことを見てきたのです。連邦基地では。。。」
「確かに目的もなくこんな辺境な宙域をさまよっていることを不審に思うなとは言わないわ、だけどこのヴァンにどれだけの物資が乗るように見える?私が必要なのは、しばらく次の駅を見つけるまでに必要な食料と、
太陽光パネルのバイパスダイオードのスペア、それからこのギターとレコーディング機材だけよ!」
「盗まれたのはそう容積の大きいものでもないのです。積み荷を少し見せてくれればそれでよいというわけにもいかないのです。それに、その小回りの利くヴァンをうまくやって輸送船の死角に入りどこやらの闇商にうっぱらってしまっている可能性だってあるわけでしょう。」
「わかった、わかったわ。。。私のログを見せるから、もうこれ以上私を拘束しないで頂戴。。。こんな美しいアステロイドの中にいるのに、理不尽な尋問だけにバッテリーの寿命を費やしたくないの。
もうすぐ次の駅を探さないと、バッテリーの寿命も食料も尽きてしまうわ。」

彼は私のヴァンのコンソールポートに偵察局標準のチェストコンピューターをつなげて、私の航行ログを数拍ほど見やる。
地球基地上空局からのとてつもないログに少し驚いたようにも見えたが、どうやら圧縮・解析をかけてそれらしい航路がないことを確認したようだ。

「よし、あなたの航行の目的が不明であることを不審に思うことは変わりないが、私には私の仕事がある。いってもよい。」
「最後まで一言余計なのね。さようなら。」

私と若い男は互いに互いが潔くその場を後退し離れるのをにらみながら、自分の船へと後退していった。
すっかり冷めきってしまった私はエアロックのスタンドにトリプルオーを丁寧にしまい、スーツを脱ぐ。
貴重なテープに嫌な気を録音してしまうのは気が進まなかったので、リールを止めて、次の食糧調達地点になりそうな駅を前方の方向にあたりをつけ、コンピュータにセットする。
このセクターではより端っこのほうで、元来た地球からは一番遠い区画だ。バッテリーには少し余裕があったが、食料にはもう少し余裕が欲しかったため、私はコールドスリープに入って時が来るのを待つことにした。。。